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「平等な教育」は力

投稿日:2007年10月29日 カテゴリ:今、ガブッと教育

世界トップの学力で有名なフィンランドの視察から、私はつい先日帰国。「学力向上」に力を注ぐ日本は、深く学ぶ必要がありそうだ。
その手助けとなる好著が、「NHK未来への提言」シリーズの一冊、『オッリペッカ・ヘイノネン「学力世界一」がもたらすもの』である。著者のヘイノネン氏は、学力世界一の礎を築いた教育大臣であり、就任当時は29歳の若さであった。
「教育で大切なのは機会の平等です。その基礎があって初めて世界の頂点に立てる高い水準の人材を育成することができます。教育はいわば〝投資〟です。国の競争力に関わる問題なのです」と、彼は語る。言葉通り、フィンランドは学力だけでなく、経済競争力でも常に世界のトップに位置している。その彼に東大教授の佐藤学氏がインタビューを試みている。
「教育の質をよくするためには、とかく中央からのコントロールがなされがちなのですが、フィンランドでは教師や生徒や保護者の自主性、主体性を支える形で改革が行われた」と述べる。インタビュー形式のために読みやすい。
ヘイノネン氏は、「教育と人間の成長を手に入れるためには経済成長を忘れること」が必要という。教師と生徒に向けては「自分の頭で考え、心で感じたものを信じること」「創造力を引き出し、モチベーションを高め、彼らが内なる洞察力を手にする」ことが学力向上につながると強調。人は「学校のために学ぶのではなく、人生のために」学ぶのだと格言を引用する。一方の佐藤氏は、フィンランドには教育現場への思い切った裁量権の委譲と考える力を育てるための工夫があったとし、子どもたちが、自分の力を信じ、自ら考え、答えを見つけ出せる、そんな人間に育ってほしいと願っている。
このような論議を補強し、各論を展開するのが、日本で初めてフィンランド人自身が書いた『平等社会フィンランドが育む未来型学力』である。フィンランドの教育力を支えているのは次の13の特徴という。
①「教えること」から「学ぶこと」への転換と通知表のない小学校 ②子ども参加の学校づくり ③休暇がいっぱいの学校生活 ④少ない授業時間に通学時間制限 ⑤学校と家庭の協力効果 ⑥義務教育から大学院まで完全無償 ⑦地域間格差のない学校教育 ⑧競争と差別のない平等な教育 ⑨教師の専門性の高さ ⑩学校が社会参加を育む ⑪自治体ごとに運営される教育制度 ⑫学校委員会の活動 ⑬就学前教育制度―。
一方、日本は徹底した注入と訓練主義的な方法に力を入れ、子ども抜きで学校づくりを進め、夏休みの短縮までして授業時数を増やす。親はモンスターペアレントと化し、行政は弁護士や警察OBらからなる「学校問題解決支援チーム」で対抗。大学は400万円前後はかかり、塾代もばかにならない。すべてにおいてフィンランドとは逆の方向へ向いていないか。
新たに全国一斉学力テストまで導入。「競争」と「淘汰」によって学力を上げようとする日本。本当にこれで大丈夫かという心配に対して、しっかり展望を示してくれる好著である。

(了)
★『NHK未来への提言 オッリペッカ・ヘイノネン「学力世界一」がもたらすもの』
オッリペッカ・ヘイノネン+佐藤学著、 NHK出版、2007年7月25日

★『平等社会フィンランドが育む未来型学力』
ヘイッキ・マキパー著(髙瀬愛翻訳監修)、明石書店、2007年5月31日
【北海道新聞 2007年10月21日付「現代読書灯」掲載】

新刊情報

160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
滋賀県
現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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