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私の朝

投稿日:2008年1月1日 カテゴリ:エッセイ

トントントン、トン。私は2階から階段を下りて、居間の外のウッドデッキで鳴く愛犬の元へと急ぐ。「クゥー、クゥー、クゥ」。まるで猫のような甘え声で私を呼んでいる。なぜだかわからないのだが、いつも朝の6時と決まっているのだ。

「ダメでしょ。まだ6時ですよ。ご近所迷惑です。シー」

人差し指を口に当ててこう注意すると、彼は前脚をきちんと揃えて「正座」。そして、いかにも「悪うございました、反省します」といわんばかりに、ちょこんと首をかしげて私を見上げる。

「彼」はもう14歳。体重13キロ超のイングリッシュセッターである。

ある時妻の友人が、5匹も産まれたという仔犬の中から、一番「人柄」のよさそうな1匹を選んでわが家に連れてきたのだ。当時小2の下の娘のお友達役にちょうどいいとか何とか説得されて、結局飼うハメになったのだ。こうして今では、わが家の主として君臨している。

私の朝は、こんな家事ならぬ「犬事」(?)からスタートする。

ところが、雨が降る日は、彼も寂しいムードに弱いのか、それともまだ熟睡しているのか。理由は定かではないが、鳴かないので助かる。

鬼ならぬ〝犬の鳴かぬ間の洗濯〟とばかりに、一仕事。洗面所に戻った私は、洗濯機の給水ポンプを前夜のフロの残り湯の中へと延ばし、回転槽に洗濯物をほうり込む。ほうり込むとはいっても、実はこの作業に一番気を遣う。自分のものと、多少のことでは型くずれしない家族の丈夫なものだけを洗濯かごの中から素早く選別しながらネットに入れる。この時に、うっかり間違えて妻が大切にしているTシャツなどを一緒に紛れこませでもしたら大変。厳しいクレームが待っているからだ。また、ファスナーが少しでも開いていると、洗濯物が洗濯機の中に飛び出す。わが家の洗濯機はよほど元気がいいのだろうか。フタを閉じてボタン類をセットすると、石鹸量が表示される。たいがい専用スプーン「0・7」杯である。わが家は合成洗剤は一切使わない。水質汚染防止のためにも粉石鹸しか使用しないのだ。私が大学生の頃、母が琵琶湖の環境保全運動を進めていて、粉石鹸の良さをよく教えてくれたことを思い出す。

42分。でき上がりまでの時間が表示される。「ヨシ、洗顔のあと、1本原稿書き上げてから干せるぞ―」。決意を込めて、私はスタートボタンをグイッと押す。しばらくすると、モーター始動の低いうなり声。「さあー」とばかりに、私の歯ブラシも動く。

最近ふと気付くと、わが家のほとんどが天然素材に切り替わっている。歯みがき粉も洗顔クリームやアフターローション類もそうだ。家族が「研究」しているようだ。「お父さん、もう年なんだからハダもしっかり手入れしないと―」。とにかく娘たちがうるさい。

流れ作業のように朝の家事をこなしながらも、毎日使うものに母や家族の〝思い〟が詰まっていることを実感させられる。

愛犬以外は、まだ静かに眠りについているわが家。家全体の空気が動き始める前の、ほんのわずかなこんな時間こそが、私の貴重な〝朝〟なのだ。

さて、某紙のメール相談の回答を仕上げることにするか―。遠くかすかに洗濯機の振動を感じながら、私はペンを執った。

(「Let’s!家事おやじ」『佼成』1月号、2008年1月)

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160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
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現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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