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私の「ことば」生活

投稿日:2008年4月1日 カテゴリ:エッセイ

“ことば”は、私の生の証、生活そのものである。
今日は静岡で、明日は大阪で講演。夜はホテルで二晩連続の原稿書き。
365日、こんな毎日の繰り返しである。しかし、これまで講演も、執筆も、文字通りの「繰り返し」はない。2500回近い講演も、170冊を超す著作も、すべて同じものはないからだ。
私にとって、「話すこと」と「書くこと」は、両方とも聴き手と読み手に向かって、「ことば」を武器に未知との遭遇を演出する“息づかい”そのものである。「話す」「書く」という動作によって、私の心を相手に届ける営みである。
したがって、私は原稿を読み上げる講演はしない。講演は、閉じられたペーパー空間を飛び出して立ち上がる舞台である。聴衆のうなずき、目の輝き、小さな表情一つから、その喜びを受けとめ、共感する。時には解説し、説得に入ることもある。たとえ1000人規模の講演であっても、私は、会場の1人に向かって“心”を“ことば”に置きかえて、音声として発する。心と心を共鳴させながら、一つのテーマを考え合う、それが講演である。
だから、居眠りしているお客様をそのまま見捨てて話し続けることはできない。
「先生の講演は、テレビで観るのと全く違うんですね。こんなに面白いとは思いませんでした」とか、「深刻な話なのに、お腹をかかえて笑いました。声出して笑いながら聴く講演なんて初めてです」などと、どこでも同じような感想をいただく。
そのたびにうなずきながら、私はこうお話ししている。
「だって、テレビは無機質なカメラに向かってコメントするのですから。聴き手不在なんです。今日の講演は、皆さんと一緒につくったんですよー」
講演とは“話したいことを舞台俳優のように全身で表現して演ずること”であるというのが、私の持論。
かつて著名な大学教授が、「私は、今日の講演のために、原稿を書いてきました。それを読み上げます」と言って、壇上でマイクを前に目を落として、90分間ただひたすらに「朗読」した。聴衆の大勢が安らかな眠りについたことは言うまでもない。
難しい内容を、抑揚もなくただ棒読みで聴かされるのは、一種の精神的な拷問である。体が素直に反応して、聴衆は眠ることによって苦痛から逃れたのかもしれない。
それにしても、こんな講演は参加者に失礼千万。それなら、原稿をパンフレットにでもして配り、“講義”した方が親切だ。活字文字による表現にこだわるのであれば、それに徹して責任を持つべきではないだろうか。
しかし、私にも失敗がある。苦手の一つは国会における「意見陳述」である。ここでも、いつもの習性で、各党の議員の目を見て、引きつけて話さないと意見陳述した気分になれないのだ。だから、レジュメは準備するものの、持ち時間の20分はフリーで話す。すると、先日など、議員さんのあまりの反応の鈍さに驚き「プロフについてご存知の先生方、挙手お願いできますか」などとアクションを入れてしまった。「意見陳述」という責務からすれば、場外乱闘になってしまった。反省することしきりである。
私の講演では、常に“ことば”を立体化させることを心がけている。だから、演卓の前にじっと立ったままということは、ほとんどない。とにかくよく動く。時には階段を下りて、聴衆に意見や賛否を問う。また、視覚にも訴えるためにホワイトボードを使う。3000人相手でも、ステージ上をよく歩く。そして、書く。2階席からでは見えない。しかし、それでいいのだ。少しでも参加者に伝えようとする私の心を、“ことば”以外の「動き」によって立体化していくのである。
「先生、勇気が出ました」「元気をもらいました」
立体的なアクチュアルな“ことば”は人々を元気にさせる“魔法の力”を秘めているのだ。
ところで、“書きことば”の方はどうか―。
いや、恥ずかしい。肝心のこちらの方について書くスペースがなくなってしまったようだ。“書きことば”はごまかしがきかない。なんとも厄介である。

(「エッセイ」『ことばの学び』16号、2008年4月)

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160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
滋賀県
現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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