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第1回:全国一斉学力テストの“怪”

投稿日:2009年4月21日 カテゴリ:教育insight

4月21日(火)、全国一斉学力テストが実施される。

今年で第3回目である。今回の目玉は何といっても、これまで全国の自治体の中で唯一不参加を続けてきた愛知県犬山市も参加に踏み切り、文字通りの“全国一斉”となった点であろう。

しかし、今や全国一斉スタイルを採る国は世界でも珍しいのではないか。なぜなら、サッチャー政権下における教育改革以降、長きに渡って全国一斉テストを実施してきたイギリスでさえ、昨年10月14日、7歳・11歳は依然として継続するものの、14歳の実施は廃止することを決定したからである。学校間競争が激化し、学力は思ったほど上がらず、教育がテスト偏重にゆがんだからである。

ところで、この全国一斉学力テストのどこがどうおかしいのか、また、子どもや教師がとまどっているのか。現段階での問題点を今一度整理しておこう。

1.まず、テスト時間が長すぎること。対象である小6と中3の生徒は国語の「A・B」、数学(算数)の「A・B」の2教科・4科目に加え、生活調査に1コマ使うので、結局丸一日、テストに時間を費やすことになる。普段の定期テストなら、子どもたちはテストのために勉強もして力をつけようとするし、結果を見て、自分の弱点や課題も発見できる。また、先生の支援を受けて間違いの修正もできるために学力も身につく。だから真剣にテストに取り組む。

しかし、今日の全国一斉学力テストは、9月か10月にしか自分の手元に成績が返却されないばかりか、学校の成績にも関係のない「テスト」に、どうして本気で取り組めるだろうか。テストの間、多くの生徒が机にうつ伏している中学校あると聞く。したがって、テスト本来の意味や機能はすでに喪失しているに等しい。

2.「各学校が各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる」(文科省)ことが調査の目的と言うが、そんな学校はほとんどない。

第一、9月、10月に結果を返すのでは、日常の授業の進度上も、丁寧に点検・解説することなど不可能である。さらに、すぐにも中学生・高校生になろうとする子どもたちは、目前の進路や受験対策に追われており、4月のテストの見直しどころではない。教師も生かしようがないのだ。その時間もない。

加えて、間違いのプロセスなど何もわからぬ正否を示す「○」「×」と全国平均正答率だけが提示された「個人票」をもらっても、何をどう指導せよというのか―。あまりに現場を知らなさすぎる議論ではないか。

万一、そんなに効果があるのなら、学力向上が「売り」である私学がこぞって参加するはずである。ところが、私学の参加率は07年度の62%、08年度の53%、今年度は48%へと低下。「結果から得られるものがない」からである。

3.新しい差別を生んでいることも問題である。不登校傾向のある子どもや学力の低い子は、「学校の平均点を下げる子」という同級生からの非難の声に肩身を狭くするなど“新しい差別”が生まれ、居場所を喪失しそうになっている。

4.すでに全国ほとんどの県や市区町村が独自のテストを実施しており、文科省の言うような個別の生徒の問題点の把握や指導については、現場では日常指導を通して実施中であること。文科省のテストは意味をなさないようだ。

5.「競争すれば学力が上がる」という考えには大きな疑問符がつく。いやむしろはっきりと間違いである。学力競争ならぬ「得点力アップ競争」に陥るために、廃止したイギリスが懲りたように「テスト対策」に偏重し、得点で測ることのできる「テスト学力」だけが身に付くからである。逆に、創造的にものごとを考えたり、問題解決をはかったりする生きた学力は育ちにくい。相も変わらぬ「テスト学力」にとりつかれているだけで、生きる力を学力の土台に据えている国際社会の学力観から日本は一人とり残されていくだけだろう。

6.「一体学力とは何か」について真剣に考え直すべき時だろう。100年に1度といわれる今回の金融危機の到来。その原因や歴史的背景を見抜き、打開の方向を探れる洞察力に加えて、柔軟な思考力や発想力を発揮できる力こそ、学力の中核に据えられなくてはなるまい。

このまま「全国一斉」のテストを続ければ、国民が今よりもっとひどい「学力=点数」信仰に陥り、日本の歴史を100年遅らせることになる危険さえある。

以上、色々と問題点を列挙してきたが、何も難しく考える必要はない。学級定数を25人位にまで減じ、教員の数を2倍に増やすだけも、学校にゆとりが生まれ、子どもたちの心も学力もよみがえるだろう。OECD加盟国中、GDPに対する教育予算が最低の3.4%という現状を一刻も早く脱すべきだ(ちなみに、高等教育機関への公財政支出の対GDP比率も、国際平均1.1%に対して、日本は0.5%である)。

毎回50億円以上も費やす必要が全国一斉学力テストにあるのだろうか。サンプル調査への切り替えも視野に入れ、テストそのものについて考え直すべき時であろう。

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160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
滋賀県
現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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