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第2回:体罰認定に「目的・様態・継続時間」!?

投稿日:2009年4月30日 カテゴリ:教育insight

■戦後初の最高裁による体罰判断に

・「最高裁、体罰認定を破棄-目的・態様など考慮」(「朝日新聞」2009年4月28日夕刊)

・「小2の胸元つかみ壁に押しあて-最高裁、体罰と認めず」(「読売新聞」2009年4月28日夕刊)

この裁判は、男性臨時講師が小学2年生の男児の胸元をつかんだ行為が「体罰」に当たるかどうかが争われたものである。

裁判の結果は、この案件程度なら、その「目的・態様・継続時間」などから見て、体罰とまでは言えないとしたものである。

判決のいう「体罰」でない論拠とは何か、判決文を要約すると、

「(前略)X(筆者注:訴えられた教師)の本件行為は、児童の身体に対する有形力の行使ではあるが、(中略)被上告人(筆者注:男児)を指導するために行われたものであり、悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Xは、自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており、本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても、本件行為は、その目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、(中略)Xのした本件行為に違法性は認められない。(後略)」

つまり、「有形力の行使」ではあるが、「指導するために行」ったものであり、「肉体的苦痛を与えるために」行われたものではない。「穏当を欠く」ところはあったが、本件行為は「その目的、態様、継続時間等」から判断して「許される教育的指導の範囲」を逸脱するものではない。

したがって、「学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではない」というのである。

■私のコメントは

ちなみに私は、今回の最高裁判決に対して、共同通信に以下のようなコメントを出した。いろいろと配慮したつもりである。

教育的指導が目的なら有形力を行使しても構わないという判決で、影響は大きい。これではすべての体罰が容認され、死者が出ても体罰ではないことになってしまう。子どもが教師をけるのは失礼で、見過ごさずに指導しなければならない場面だ。しかし、そこでこそ心が通じるような指導力を発揮しなくてはならない。この子はそういう形でしか気持ちを表現できない子だったのかもしれない。今回の行為はグレーゾーンのレベルなのに和解に至らず、体罰論に白黒をつけるような結果になったのは不幸だと思う。

■評価する声の特徴

この判決に対して、世論は概ね好意的だ。

その理由の第一は、これで度を越したモンスターペアレントを防止できるのではないかというもの。確かに、その気持ちはわからぬわけではない。しかし、体罰容認の論拠とモンスターペアレント問題の解決方法をごちゃまぜにしてはなるまい。

第二には、「教師は口頭での指導しか許されないという風潮が強い教育界にとって、意義のある判決」(梶田叡一・兵庫教育大学学長、「読売新聞」2009年4月28日夕刊)というもの。

この判決はある意味で、文科省が2007年2月に出した通知の後追いともいえる。つまり、「やむを得ない場合、力を行使して子どもを制止することは体罰でない」とした通知である。

ここに隠された論理と心理は、「体罰を行使できないと指導できない」という考えや不安である。しかしこれは、あまりにも大きな間違いだろう。

生徒指導方法は、多様で多彩である。体罰を厳禁すれば、それだけ教師が身動きできず、各教室がルーズになるとはあまりにも力がないのではないか。

教育的指導は、何も子どもを威圧しなくても、心通いあえる手法はいくらでもある。「体罰=指導」などという狭い意識に陥ってはなるまい。

■改めて体罰禁止の法理論を学ぶ

体罰の禁止は明白である。「体罰が行使できないと指導できない」というのはとんでもない飛躍であり、暴論にすぎない。なぜなら次のように明確に「児童・生徒への懲戒権」が認められているからである。今回も「立腹し」「行為を行っており」「やや穏当を欠く」と批判しているように、これまでの体罰係争事件のほとんどが、懲戒権は一切行使せず、「腹立ち」まぎれの教師による暴力・暴行・暴言であるケースが大半であった。

学校教育法では次のように懲戒権ははっきりと認めているのである。

校長・教員の懲戒権 学校法11

校長・教員は、教育上必要があると認めるときは、児童・生徒に対し懲戒を加えることができる。

体罰の禁止 学校法11ただし書

ただし、体罰を加えることはできない。

体罰の定義もそれほどわかりにくいものではない。昭和23年12月22日の法務庁法務調査意見長官通達を見ておこう。きわめて具体的で柔軟な思考をしている。

体罰―学校法第11条にいう「体罰」とは、懲戒の内容が身体的性質のものである場合を意味する。すなわち、①身体に対する侵害を内容とする懲戒―なぐる・けるの類―がこれに該当することはいうまでもないが、さらに、②被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒もまたこれに該当する。たとえば端坐・直立等、特定の姿勢を長時間にわたって保持させるというような懲戒は体罰の一種と解せられなければならない。

しかし、特定の場合が右の②の意味の「体罰」に該当するかどうかは、機械的に制定することはできない。たとえば、同じ時間直立させるにしても、教室内の場合と炎天下または寒風中の場合とでは被罰者の身体に対する影響が全くちがうからである。それ故に、当該児童の年齢、健康・場所的および時間的環境等、種々の条件を考え合わせて肉体的苦痛の有無を制定しなければならない(「児童懲戒権の限界について」昭和二三・一二・二二調査二発一八 法務庁法務調査意見長官通達)。

■体罰裁判の歴史

では、戦後の主だった体罰判決をながめ、そこに流れている共通した考えを検討してみよう。とくに最後の「スキンシップ」と体罰のかねあいは参考になる。

①学級日誌の記載をめぐるトラブルで生徒の顔をなぐり軽いきずを負わせたのは体罰にあたる。教師が教育の現場で生徒に対して暴行することがやむを得ないと評価されるには、その生徒が人の生命・身体に現に危害を及ぼしているか、またはその可能性が具体的である場合に限られ、そうでない以上は教諭の生徒に対する暴行は違法である。<平元・四・二四 東京地裁>

②法はもとより当時の校長も体罰を禁止していたが、被告は「建前にすぎない」と考えて安易に力に頼る指導をしていた。動機は、被害者の態度に誘発された私的で短絡的な怒りの感情で、われを忘れ手加減を加えなかった。しかし、熱心な教師として被告を慕う卒業生もおり、酌むべき事情もある(近大付属女高生体罰死事件=有罪、懲役2年)。<平七・一二・二五 福岡地裁、同旨 平八・六・二五 福岡高裁>

③教師の行う体罰は、極めて軽微な場合を除き違法と解するのが相当であり、砂埋めの生徒に対する屈辱感などの精神的苦痛は相当なものであった。教諭らは、生徒指導で体罰が必要な場合もあると考えているふしもあり、教育観の再検討を促すことを含めて深刻な反省を求める(砂埋め体罰訴訟)。<平八・三・一九 福岡地裁>

<体罰とスキンシップ>の相違をどうとらえるか

④「スキンシップよりもやや強度の外的刺激」に期待される教育効果からして、①そうした有形力の行使に当たって教師が個人的感情を抑制することに配慮し、かつ、②その行為の態様が、口頭によるのと同一視してよい程度の軽微な身体的侵害にとどまる場合に限り、その有形力の行使を許容してよい。<昭五六・四・一 東京高裁>

■懲戒についても「配慮」は当然

つけ加えるなら、懲戒権の行使に当たっても“子どもの発達権”“学習権を守る”という視点は不可欠であろう。

たとえば法的にも次のように述べ、また判例もある点をわきまえたい。

懲戒についての配慮 学校法施規一三①

懲戒を加えるにあたっては、児童・生徒の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。

*懲戒権の行使は、生徒の権利侵害をともなうことが少なくないので、「懲戒を加えるに際してこれにより予期しうべき教育的効果と生徒の蒙るべき右権利侵害の程度を常に較量し、いやしくも教師の懲戒権のよって来たる趣旨に違背し、教育上必要とされる限界を逸脱して懲戒行為としての正当性の範囲を超えることのないよう十分留意すべき」であり、そのためには「当該生徒の性格、行動、心身の発達状況、非行の程度等諸般の事情を考慮のうえ、それによる教育的効果を期待し得る限りにおいて懲戒権を行使すべきで、体罰ないし報復的行為等に亘ることのないよう十分配慮されなければならいことはいうまでもない」。<昭四五・八・一二 福岡地裁飯塚支部>

ともかく、子どもを大人や教師の下に見おろして、「指導してやる」「子どものくせに」といった視点や発想ではあまりにも野蛮といわざるを得ない。体罰客観論については、腰を据えてじっくりと考えたいものである。

新刊情報

160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
滋賀県
現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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