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第3回:「国内修学旅行中止」の背景

投稿日:2009年5月18日 カテゴリ:教育insight

■はじめに

 徳島県教育委員会は、新型インフルエンザ感染が国内で初めて確認されたことを受けて、海外だけでなく国内を含めたすべての修学旅行について「中止」を含めて再検討するよう文書で各県立学校と市町村教委に通知を出した。それを「受けた」形で、各学校は相次いで修学旅行の「中止」を決定。ある校長は「教委の通知を受け、生徒の安全を第一に考えた―」と話している。

 ここからは、ある意味で「日本の教育問題」の縮図のようなものが見えてくる。

 関係者を非難したり、気楽に評論だけする姿勢ではなく、皆さんとともに問題を整理しながら考えたい。

■「通知」行政と機械的対応の現場?

 最大の問題点は、いかに危機管理の課題とはいえ、本来、法的にも行政命令を下す権限のない「県教委」が「市町村教委」に対して、一方的な「通知」を出したことである。「アドバイス」程度なら理解できるものの、なぜ「通知」なのか―。

 県教委は、「学校における新型インフルエンザへの対応」の中で、「修学旅行等の校外行事について、新型インフルエンザの発生状況等を踏まえた上で、中止を含め再検討する」などと、あまりにも硬直な表現をとっている。
 「条件」や「期限」付きの柔軟な指針を示すのならわかるが、これでは市町村教委や校長は、段階的な対応を慎重に工夫しながら検討する余地がほとんどないに等しいではないか。

■機械的対応

 現に、徳島市内では全31小学校が5月に予定していた6年生の大阪・京都・奈良などへの修学旅行を中止。また、県内の全公立小中学校約300校の内、少なくとも174校が国内旅行の中止・延期を決めている(「読売新聞」2009年5月14日付 徳島版)。

 修学旅行ばかりではない。徳島県内の2つの市教委は5月11日、県外への遠足についても延期か目的地変更を小中学校に要請した。ある町では、四国外への遠足の自粛を求め、ある小学校では隣の香川県や淡路島への遠足までも県内に変える調整に入っているという(「徳島新聞」2009年5月13日付)。

 もちろん、教委やとくに現場の校長は「そこまでしなくても―」「せっかく子どもたちが早くから準備してきたのに―」という無念な思いでいっぱいであっただろう。

 しかし、一部の自治体を除いて、あまりに一方的、機械的、越権的な教育行政と学校現場の主体性のなさを露呈してしまった。

 結局は「右へならえ」の「責任逃れ」と言われても仕方がないだろう。

■“過剰反応”の「パニック教育」にしないために

 徳島県教委は、このままでは“過剰反応”と批判されても弁解のしようがないのではないか。ある意味で「パニック教育」になってしまった危険さえある。

 すでに「インフルエンザという言葉も聞きたくない」という子どももいると聞く(現地記者より)。
  これまで修学旅行に向けてがんばって準備したり、期待をふくらませてきた子どもたちにとっては、その「喪失感」は大きいだろう。トラウマとなってずっと心に傷を残しかねない。

 そうしないためには、今からでも丁寧な事後の「ケア」が必要であろう。今度こそ子どもたちの声を丁寧に聞きとり、保護者のサポートももらいながらじっくり腰を据えた対応と実践をすべきである。修学旅行に行けなくなったから「普通の授業をして終わり」、では済まされまい。

■見え隠れする教育界の「右へならえ」と「責任逃れ」体質

 現地では、「自分の学校だけ実施するわけにもいかず―」と悩んだ校長もいたという。そこには、市内で「連合」して修学旅行を実施するという「特殊」な事情もあったようだ。他県でも多いとはいえ、実はそのようなこれまでの「実施方式」そのものが、業者との癒着を生んだり、カルテルの疑念を生じさせるなど、今日では大問題になっているシステムなのである。

 今回のことは、「過剰反応」「責任逃れ」「上意下達」「拙速」「パニック教育」、あるいは「他地域への偏見や差別を生む」「観光地の人々への経済的打撃などへあまりに無配慮」―などさまざまな問題を提起した。

 しかしこれらは、現在の日本の教育が抱えるさまざまな問題に共通しているように思われる。

■自主的、創造的な学校づくりめざして

 徳島県内のある町の6小学校と中学校では「危機的状況ではない」として、予定通り5、6月に修学旅行を行うという。他にも保護者の意見を尊重して実施を決めている町もある。
 
 中止にしろ、延期にしろ、実施にしろ、このような場合、現場が決断するには大変な労力と勇気を要する。しかし、もともと教育とは手間のかかる仕事なのである。そこを避け労を惜しんでは、実るものも実らないのではないか。

数は少なくても主体性のある町や学校に学び、勇気をもらいながら、子どもたちが生き生きと学べる学校行事と「安全・安心」の教育を統一した学校づくりを地域や保護者、子どもたちとともに模索したいものである。

新刊情報

160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
滋賀県
現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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