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第7回:教員免許更新制の「怪」

投稿日:2009年7月23日 カテゴリ:教育insight

■初年度から大失敗!

2009年7月15日付の朝日新聞(夕刊)によれば、教員免許更新の講習が、なんと39大学で合計228講座もが中止に至ったそうだ(7/15現在)。

文科省は、制度開始にあたって全国の大学にできる限り多く講習を開講するように要請してきた。各大学がそれに正面から応えた結果、「必修」科目は全国315大学・901講習、「選択」科目は496大学・8540講習も準備したのである。「選択」科目など約10万人の受講予定者数に対して、募集定員は約13万6600人にも及んでいる。これでは、完全な「供給過剰」であり、申込者は「必修」が約6割、「選択」に至っては約4割に過ぎない(文科省調べ)。広島大学など、8月中に「選択」科目を69講座開く予定だったものの、半数近い31講座が「0」も含めて8人以下であったために中止したという。

免許の失効を伴う大切な講習が、このような杜撰な見通しと運営で実施されているのである。これでは、受講生どころか、大学側にとってもきわめて劣悪な「経営効率」であり、各大学で今後の実施も含めて問題化することは必至である。

■教員免許更新制とは

2007年6月に改正教育職員免許法が成立し、2009年度から教員免許更新制が導入された。

対象はすべての国公私立の幼稚園から高等学校まで、管理職など一部の幹部教員を除いた現職教員約110万人である。免許の有効期限は10年で、更新時には「教育の最新事情に関する事項」12時間、「教科指導、生徒指導その他教育の充実に関する項目」18時間、合計30時間の講習を受け、修了認定を受けなければならない。受講者数は毎年10万人近くに達するはずである。

講習は、全国の教員養成課程を持つ大学などが中心となって担当する。夏休みなど休暇中に1日6時間の研修を5日間行うスタイルが一般的だが、対面型講習だけでなく、オンデマンド方式(通信・インターネットや放送による形態)も認められているために、6000人~1万人とも言われる大規模な通信型講習方法で準備している大学や、なかには、最後の試験まですべてをインターネット上で修了させる大学もある。これに対して、研修の意義や効果への疑問の声も上がっている。

■現場への重い負担

免許更新のための講習は、本当に有益なのだろうか。中身と運用の問題点や重視すべきポイントは何か、考えてみたいと思う。

第一には、受講する教員の負担があまりにも大きいという問題である。今、教員の労働時間は1日11時間にも及んでいる。ストレスから精神疾患で休職する教員は10年前の約3倍、5000人近くにまで達している。もともと教職に就いて10年目は、10年経年者の研修に該当する節目の年。ここに新たに免許更新講習が加わることになるのである。10年目の中堅・ベテラン教員は公務も多く、役職も重くなる。疲弊しないだろうか。

第二には、運用上の問題点があげられる。そもそも教員は、経年研修(初年次、2年次、3年次、5年次等)、教科研修(国語、数学、理科、英語等)、校務分掌研修(教務、図書、生活指導、PTA等)、校内の課題研修(「授業に集中させるには」「活用力のつけ方」などテーマごとに)、教育委員会の課題指定研究等、1年中何らかの研修漬けの状態に置かれている。まず、これら既存の研修を見直して整理し、研修そのものをより一層充実させることが必要である。とくに同時並行で行われる「10年研修」は、もともと免許更新制に替わるものとして設けられたものであるから、そのまま更新に必要な時数に読み替え、実質的には免許更新講習と一体化させ統合させる方が合理的で効率的ではないだろうか。

第三には、講習を担う大学側の問題である。最近の大学は、7月いっぱいまで授業を行っているところが多い。すると、講習に使える期間は、盆休みを引くと、わずか3週間ほどしかない。大学の教職員も、学会やゼミ合宿、論文執筆などで夏は大変に忙しい。教室も例年、スクーリングや研究会、諸団体に貸し出されていて満杯である。これでどのように大学教職員と教室を確保するのだろうか。

第四に、こうした10年の期限と免許更新制のリスクが、教員を目指す学生に大きな不安を与えていることである。最近では、教職課程を登録する4月の段階で“教職への道”を断念する学生が続出。教職への入口で、有能でやる気のある学生が大勢身を引いてしまい、結果として教員の“質”が低下するような事態を招いている。これでは、いかに講習でレベルアップをはかったとしても、本末転倒ではないだろうか。

こうした負の連鎖を生まないためには、教員を免許更新制で追い詰めるよりも、教職そのものに希望がわき、教員志願者が多数集まるような、温かい政策こそ必要だろう。そうでないと、全国平均でも2000年度の12.5倍から08年の4.3倍(小学校)へと急速に落ち込み始めた教員への志願倍率は、今後さらに低下する恐れがある。

■実効性のある講習か

むろん、講習の中身も重要である。“今”に特化すべきだろう。

しかし、日本の大学は「座学」中心で推移してきた。どれだけの大学教員が10年の実践家ベテラン教員に対して、更新にふさわしい講習内容を提供できるのだろうか。

他にも都市部と地方との格差や私費負担の問題、複数免許保有者は、1教科のみの更新で他教科まで更新扱いになったり、校長や副校長、教頭、主幹などは免除されたりと、これでは更新制は職階による免許に優劣の差別が生じることになり、本質的に矛盾だらけで、疑問が残るばかりである。

国による教員免許更新制は、州が教員免許を発行するアメリカを除いては、国際的にも珍しく、今回の導入は拙速の感が否めない。運用段階で、よほど大胆に学校現場の要望を受けとめないと成功は難しいだろう。現場教員も自らの問題なのだから、遠慮せずに批判すべきは批判し、積極的な改善要求や廃止提言などをすべきだろう。

新刊情報

160318-0737

尾木ママ

誕生日:
1947年1月3日
血液型:
A型
出身地:
滋賀県
現在の住まい:
東京
職業:
教育評論家、法政大学特任教授
臨床教育研究所「虹」所長
出演番組:
NHK教育(Eテレ)「ウワサの保護者会」
(土曜21:30~21:54放送 ※MC)

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