第13回:6年間の「共育力」に感嘆!
投稿日:2009年11月27日 カテゴリ:教育insight
■習字の展示
先日、東京郊外にある自由学園男子部の「学業報告会」を見学した。正門を入るなり、私の目に飛び込んできたのは習字の作品群。
「すごいなー。上手な子のも下手な子のも、みんな発表しているんだ」
私は興味津々で近寄ってみた。
ところがよく見ると、中1から高3まで同じ生徒の作品が各学年1点ずつ、合計6点展示されているのだった。どの生徒も中1に比べると高3では運筆も鮮やか。自信にあふれて力強い。「真実」や「学問」、中には「主張」、「怒り」などその時々の生活や生き生きした気持ちがぶつけられていた。
とにかく、舌を巻くほど上手い。よほど凄腕の書家がいるか、指導が行き届いているに違いないと思い聞いてみると、「習字の授業も指導する先生もいないんです。生徒たちが上級生のアドバイスを頼りに、自分の書きたい言葉を手本もなしに書いているだけです。私たち教員は『うん、上手いねぇー』などと褒めているだけ。毎週月曜日に提出することを約束させているだけなんですよ」との説明。
これには二度びっくり。私はもう一度近寄り、今度は凝視した。
新入生は上級生のすばらしい作品に感動し、自分も高3になった時、あんな素敵な作品が書けるようになりたいと憧れ、努力を重ねるのだという。
先輩への憧れや学ぼうとする意欲が「学び」の中核になっており、「教え」にはないパワーを秘めていた。
■総合学習の切り口から
午前中に行われた教科の「学業報告会」も興味深い内容であった。教科の発表会と銘打っているものの、数学(中1)は「『比例の勉強』―いろいろな実験を通して考えたこと」、英語(中2)は「『賢者の贈り物』―既習の英文を用いた英語劇」、日本史(高1)は「『武州世直し一揆』―歴史的な自治社会の実現としての一揆」など、タイトルからも分かるとおり、どの教科も総合的な学習の切り口からアプローチしている。
さらに日常の学習を基盤としながらも、生徒たち自身の興味、関心、探究心を大切に育みながら、こだわりを持って、納得できるまで深化、発展させている。ある意味では徹底した、実験とフィールドワークを通した体験的「学び」となっていた。
高3の物理などは、「『電波で音を運ぶ』―東天ラジオ開局?」と銘打って実験と創作を融合させ、実生活に生かすまでの質の高い仕上がりになっており会場を沸かせていた。
ちなみに、この日参会した500名もの昼食は、高2、3生を中心とした男子生徒による手作りであった。
すべての発表において生徒が主役となり、学級や学習グループ全員による協働の力がフルに発揮される「共育」と「学び」のプロセスが見受けられた。どの授業もこうありたい、と思わせる内容であった。
■「僕たちが創る学校」
午後は「僕たちが創る学校」をテーマに、生徒による学園や寮生活における自治活動の報告と、筆者も加わってのパネルディスカッションが行われた。
この学園は学園生活も寮生活も教師主導ではない。創設者の教育理念「生活即教育」が隅々まで浸透し、「自主自律」「自労自治」の精神が21世紀の現代に至るまで随所に息づいている。寮制で男女別学という“レトロ”なスタイルにも関わらず、時代を切り拓く新しさを漂わせる確かな「共育力」が感じられた。
最後の合唱。壇上に中1から高3までが整列した。最前列の高3生のバスやテノールの響きも美しい「男子部賛歌」は、教育条理と伝統の重み、無限に伸び続ける6年間の生徒たちの成長力をホールいっぱいに惜しげもなく響かせていた。