朝日新聞(10月28日付)に尾木直樹のコメント掲載
投稿日:2011年11月2日 カテゴリ:コメント
私はこう考える 大阪府教育基本条例(※記事全文掲載)
条例案は、教育委員会を悪者に仕立てて、多くの保護者が公教育に対して抱いている根強い不信や不満をうまくすくいあげているでしょ。選挙向けのアピールとしてはうまいけど、中身は目新しいものはないです。根底にあるのは、有名大学への進学率やらテストの点数やらを物差しにした、古ーい学力観。厳しい人事評価や統廃合で学校や教師を追い立てる発想も昔からあるのよ。
―保護者の間にある公教育への不信や不満とは?
「尾木ママ」として知られるようになってから、若い親御さんたちの集まりに呼ばれる機会がすごく増えたのね。よく耳にするのは。「学校や先生はうちの子をちゃんと見てくれない」「ほったらかしにされている」といった声。「言いがかりでは?」と思えるような内容もあるけど、みんな切実なのよ。
―なぜ切実な不満が増えているのでしょうか。
今の若い親は、校内暴力やいじめの嵐が吹き荒れた1970~1980年代を経験した世代。「学校や教師は助けてくれなかった」という思いが公教育不信につながっているのね。教育委員会相手に大立ち回りを演じる橋下知事の姿に溜飲を下げている人も多いと思いますよ。
―そんな親たちの不満を知っていても、条例案に反対?
時代錯誤なんだもの。国際競争に対応できる人材を育てるというけど、そんな手あかのついたエリート像にに子どもを押し込めてどうするの。子どもは国や経済界の「手駒」じゃない。戦後の復興期や高度経済成長期ならともかく、今は価値観も多様で社会も複雑。勉強のできる秀才が勝ち組人生を保証されるわけじゃない。現に、有名大学でも就職できない人がいっぱいいるじゃない。教育は子どもの人生を豊かにするためのもので、もどかしくて当然なのよ。条例案にはそういう視点がないじゃない。
―親たちが不満を持っているダメな先生に、今の制度は甘いという声もあります。
頑張る先生の前向きな努力を引き出す評価方法を検討するのはいいと思うのよ。でも条例案のように、一律5%程度の教師を最低ランクの「D」評価しなければいけないなんて、有害無益。抱えている事情や学校や先生ごとに様々なはずでしょ。頭のいい生徒を囲い込んで要領よく成果を上げる先生が得をして、問題のある生徒にじっくり向き合う先生が損をするようになったら退きの極み。私も昔、中学校教師でしたけど、荒れた生徒や問題のある生徒にこそ愛情が必要だと考え、寄り添い続けてきたつもり。でも大阪ではD評価かもねえ…。